全国一斉アカトンボ調査報告会要旨

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全体風景

ヒト・ムシ・田んぼの会


1. 15年度調査の概要

新井 裕

今年度は赤トンボ調査の2年目になります。赤トンボ(ウスバキトンボ)はなぞの多いトンボで、日本中どこにもいるが寒さに弱く、日本では冬を越せないといわれています。赤トンボが夏来るのはどこから来るのか、どこで冬を越しているのか、そのルーツを突き止めたい、DNAの鑑定によりどこから飛んできたか突き止めたいというのが目的の一つです。アキアカネは夏には山に移動するが、どう移動しているのだろうか。
例えば、東京で羽化したトンボは山の方向がどうして分かるのだろうか?など、いまだに謎がいっぱいです。

アキアカネが少なくなってきている、特に新潟や関西が減ってきているという話があります。それは、赤トンボの発生場所である田んぼや身近な水辺だから田んぼに何か起こっているのだろうか。赤トンボを通して環境問題に関心を持ってもらいたいと考えています。

アンケートは昨年も今年度も各千通配布し、ホームページからもアクセスできるようにしました。しかし、感心は低かったです。理由は、トンボの見分け方が難しいことがあります。今年は、アンケート内容を簡単にしたり、赤トンボの見分けるための下敷きを作ったりと分かりやすく工夫しましたが、期待したほど効果はありませんでした。来年は学校の協力を得ようかと思っています。6月のプール掃除のとき、羽化前のヤゴが流されてしまうので、掃除のとき赤トンボのヤゴがいるかどうか調べてもらう。次代を担う子ども達を巻き込むことは良いことだと思います。また、今夏川の博物館でトンボ展を開催しますが来館者にアンケートに協力してもらうことも考えています。

今年度のアンケ-トの結果から見ると10代、20代の関心が低かったです。これは母親の関心が低いからと思われます。50代、60代の感心が高いのは原体験があるからかと思われます。今の子ども達にも原体験が必要だと強く感じます。

DNA分析では、差があまりにもありすぎました。28種類系統の違いがありました。これはウスバキトンボが越冬している場所で既に混ざりあっていて、混ざり合ったまま越冬後日本に渡ってきていると考えられます。このことから15年度は、定点調査を実施し、目下その結果を分析中です。いずれにしろウスバキトンボのDNA解析は世界で初めてのことで、大きな成果と言えましょう。

2. 奥武蔵のアキアカネの推移

石澤 直也

昨年(2002年)の調査で埼玉県西部の奥武蔵丘陵では夏を通してアキアカネが滞留することが分かりました。そこで、そのような場所で過ごしているアキカネの成熟課程を調査した結果、次のようなことが分かりました。

  1. 体重を後翅長の3乗で除し、千倍した値(MD)が、成熟度を表す指標として適していると考えられた。
    ただしこの場合の成熟度は、必ずしも性的な成熟を意味するものではなく、からだの完成の度合いを数値で表したものである。
  2. アキカネは羽化後2週間もすれば、からだは概ね成熟すると考えられる。
  3. 9月中旬から急速に卵巣が成熟すると考えられるが、卵巣の成熟度と雌腹部の白化程度や羽の曇り具合とは必ずしも一致するものではない。

3. 寄居町周辺の水田におけるアキアカネの発生消長

新井 裕

  1. アキアカネは初夏に里の水田などで羽化し、真夏は高い山で過ごして秋になると里に下りてくると言われています。確かに 秋になると、町内のいたるところでアキアカネの姿を目にすることが出来ました。しかしその反面、寄居町やその周辺で調べたところ、アキカネが羽化する水田はごくわずかで、羽化間もない個体も羽化場所以外では全く見られませんでした。
    このことから、私は「羽化した個体は寄り道をせず一気に山に向かうのに対し、山から下りてくる個体はあ ちこち分散する」と言う仮説をたてました。このことは、田んぼから羽化した個体は上空へ上り、トンビのように輪を描いて一気に山のほうへ向かうことから裏付けられるでしょう。
  2. アキアカネが羽化した水田は早期栽培田か湿田でした。しかし、早期栽培田だからといってアキアカネが羽化するとは限りませんでした。隣接している田んぼでも発生状況は違っていました。田んぼといってもトンボにとっては住みやすさが違うのでしょう。ここから考えられる仮設は、アキアカネの発生する田んぼは多くない。限られているのではないか。ということです。
  3. アキアカネは田んぼには産卵したが、ビオトープには産卵しなかった。つまり、アキアカネは田んぼがなくなると、いなくなってしまうと考えられます。メスが、産卵場所を判断しているのですが、稲刈りの後の薄く水のある田んぼを好んでいると思われます。産卵した田んぼを調べたところ、4月に同じ場所に雨で水がたまると、たくさんふ化することが分かりました。しかし、それらは水が干上がると死滅してしまい、6月に田植えしてからはふ化しませんでした。つまり、産卵してふ化しても田植えが遅い乾田では死滅してしまうのです。無駄な産卵をしていることになります。4月に田んぼに水を入れれば赤トンボは死なないと思います。
    しかし、今の田んぼでは水利権の問題等があり、田植え前に水を入れることはできません。

≪まとめ≫ アキアカネが羽化するための水田の条件

  1. 収穫後アキアカネの産卵時期に浅い水溜りができ、アキアカネが産卵すること。
  2. 春にすぐに干上がる一時的な水溜りができないこと
  3. 田植えが4月末から5月中旬頃までに行われること
  4. ふ化時期から羽化時期(6月下旬~7月上旬)まで水位が保たれていること
  5. 幼虫時期に殺虫剤の散布が行われないこと

アキカネが減っている地域は、この条件に合わない田んぼが主体になっているのではないでしょうか。

4. 大東島と徳之島のウスバキトンボの発生消長

岡崎 幹人

大東島では、僅かながら真冬に幼虫が見られ、越冬が可能なようでした。成虫は真冬には見られなくなる年と、僅かに見られる年とがあり年格差が大きいようでした。しかし、いずれにしろ、春まではウスバキトンボの密度は低く、個体数がが多くなるのは梅雨以降でした。そして、夏の終わるあたりから激増するのですが、それは台風の影響が大きいように思われました。個体数が多い状態は10月中旬あたりまで続きますが、やがて北風が吹くようになると減ります。この北風に乗ってどこかへいってしまうのではないでしょうか? この時期本土から供給されている可能性もあります。

徳之島の場合、成虫が見られるようになるのは4月~5月中旬ですが、この時期の個体数は非常に少ないです。梅雨に入っても個体数が少ない状態が続き、梅雨明けの7月以降に急増しました。この増加には台風の影響が大きいように思われました。個体数が多い状態は10月中旬頃まで続きますが、その後激減しました。しかし11月から12月上旬までは少ないものの、毎日見ることができ、12月16日を最後に見かけなくなりました。

5. 百姓仕事とトンボⅠ

小川 文昭(人・虫・田んぼの会)

人・虫・たんぼの会は、田んぼというフィールドを通して 虫や植物や人などそれぞれが関わりあえる活動をしている会です。
農家が取り組みやすい生物調査の指標を作り、子ども達や地域の人に田んぼの生き物調査の方法を提供したいと考え、そのために現在勉強会を実施しています。さらに、地元の博物館で『田んぼの生き物展』を開催したり、『伊那谷の田んぼの虫図鑑』を作成する予定です。

私は15年前に新規就農者として農業を始めたのですが、2~3年前までは田んぼで作業をしていても生き物には目がいっていませんでした。毎日田んぼを歩いていても、目には映っていても、頭では認識していなくて、なんとなく虫がいるなーという感じでした。
村の農家の人に虫の話をしても、『小川さんは無農薬の米が高く売れて余裕が出てきたからそんなことができるんだ』と言われてしまうんです。
今では『心に余裕があれば見ることができるんだ』と言えるようになりました。

昨年、むさしの里山研究会の依頼を受けて、ウスバキトンボを初めて採集しました。トンボを手に採って観察して、初めて愛着が沸いてきたんです。そして守らなければならないと!思いました。捕まえてみないと何も分からず、愛着も沸かない。そこで、いくつかの新兵器を作ったんです。まずこれ(長い釣竿の先にタモ網をつけたものを会場に伸ばし、みんなの頭の上で振って見せてくれる。)それにカメラ、田んぼに行く時はいつでもカメラをぶら下げています。トラクターから撮った虫の写真は生き生きしていると評価されています。
それからこの『虫見枠』(50センチ四方の手作りの木製枠で、枠を田んぼに入れ、その中の生き物を全て網ですくって調べるという)。虫見枠で田んぼの生き物を見つめるようになって、田んぼへの関わり方も変わってきています。長野県から生き物調査の指標作りの話がきて、枠を作るための予算が付きそうです。
会の仲間で、『田んぼの日記』と題してメール交換をしていて、朝晩みんなで虫の話をしています。それを基に地域の生き物出現カレンダーが作れるかもしれません。

新規就農者と言う立場では、周りの農家へ伝えにくいし、伝わらないかも知れません。でも、田んぼの生き物を観察し、自分達の生き方を深めていくことで、伝える手段が増えていくと思っています。大切なのはライフスタイルの提案だと思うのです。

6. 百姓仕事とトンボⅡ

宇根 豊

全国にひと・むし・たんぼの会のような会が現れてきています。昨年12月には農林水産省大臣が政策転換を発表しました。『環境政策の基本方針』というもので『豊かな自然環境の保全・形成のための政策転換』のための基本方針です。これを実現するためには、ライフスタイルの転換が必要です。自然と共生した農的な生活スタイルであり、これからは地域で百姓が主導権を持てる、つまり百姓が主人公になるでしょう。しかし、百姓は虫の違いなど分かっているのだろうか。これから勉強していく必要があるでしょう。
そのためには、そんな百姓を手助けしていく組織として農協や役所が必要になります。農協や役所は、今までは百姓に指示ばかりしてきました。

有機農業は安全性を先行させていて、環境保全までは視野に入れていないのが現状です。そこに『赤トンボ調査』の意義があります。赤トンボと水田の関係を知らない農家が多いのが現状です。農業は、生産性の向上と環境保全を関連させていく必要があります。役に立たない生き物をどう守るかという原初的な感覚が大切になってきます。例えば、地域によっては赤トンボは祖先の霊を乗せてやってきてまた山に帰るという言い伝えがあり『盆トンボ』『精霊トンボ』と呼ばれてきました。現在の見方で新しい物語を作っていく運動が『赤トンボ調査』だと思っています。

農業政策の概念の転換が必要です。オーガニックも今や輸入がほとんどです。これで良い訳がありません。
安全な米は輸入できても『赤とんぼや田んぼの涼しい風』は輸入できないのです。ドイツでは大規模農家の年間所得は400万円位です。その内自分で稼いでいるのは190万円くらい、所得の3分の1くらいは環境支払いとして税金で賄われています。

日本は百姓が生き物(自然)を支えているという意識や自信が希薄です。今までお金になる価値でしか農を見てこなかったということです。

今後の課題として、赤トンボ調査はほんの入り口でしかありません。『生物指標』の作成を提案しています。減農薬をすれば赤トンボはすぐに増えます。しかし、赤トンボは田んぼから生まれることを認識する必要があります。農薬の指標だけでなく、田んぼの生き物の指標が必要なのです。若い人は、赤トンボを好きでないという話もあります。赤トンボの文化が変わってきています。赤トンボの文化の指標も考えていくべきでしょう。赤トンボで切り開いた感覚を他の生き物にも使っていけます。

いろいろな環境指標が必要でしょう。例えば、田んぼの畦草刈りをきちんとしていく指標(草と虫を関連させた指標)、田んぼごとに違う生き物の指標(画一的な昔からの指標からの回避のため)、全国各地の村々で作る指標など考えられます。そのためには、調査方法を提案していくことが必要です。やっと入り口が開いたところです。

7. 質疑応答

※質問をクリックすると、回答を見ることができます。

トンボの世界で地球の温暖化の影響がはっきり見られるのでしょうか?

温暖化の影響は見事に出ている。例えば、タイワンウチワヤンマは南方にしかいなかったトンボだったのですが、年々北上していて現在では神奈川県まで来ています。

トンボの産卵場所と植生の関係は?

例えば、アキアカネは草が生えているとダメ、ナツアカネは草がないとダメ等産卵場所と植生の関係はかなり緊密な関係にあります。

食の安全のためにICチップを利用し栽培暦等を管理しているが、食の画一化の農業政策ではないだろうか?

トレイスアビリティーの関係。いつの間にか野菜でなく紙を食うようになってしまったといえましょう。安全性を証明するために莫大なエネルギーを注いでいるわけです。ご飯を食べることは、自然を保護していること。そこで採れた食べ物を食べることがそこの自然を大切にすることではないでしょうか。食にはもっと豊かな価値がある。安全だけでなく、自然に配慮した農業の見直し、例えば田んぼは1枚ずつ個性が違う事実がある。自然に配慮した農業を打ち出していくのは今がチャンスだと思います。

寄居の田んぼでの調査はどのように行ったのでしょうか?

任意に田んぼを選び、歩きながら目で見て虫の有無を確認しました調査をした。

50年前の川・田んぼの状態と現在とあまりにも違っている。それを取り返すために、本庄の会では、川と田んぼと農家とタイアップして進めています。今後一緒に連携していくことをお願いしたいと思います。

承知しました。何かお役に立てることがありましたらご連絡下さい。

トンボが真上に飛び上がりトンビのように円を描いて一定方向に飛んでいくとの事だが、その方向はどちらでしょうか?

寄居町で言うとそれは秩父方面で、どの個体も同じ方向を目指しました。
三重県ではトンボにマークをつけて研究している団体があります。しかし、マ-ク個体の再発見率が少なく、あまり成果があがっていないようです。この場合、羽化場所でマークをつけていないために、せっかく再発見しても移動についての情報があまり得られないようのではないでしょうか。マ-キング場所の選定も重要だと思います。

小川さんの話では、米ぬかを撒くとオタマが死ぬということですが、オタマは米ぬかを逆さになって食べるために死んだように見えるだけでないでしょうか?

完全に死んでしまいます。米ぬかの油分が水面に浮かんで酸欠状態になるのではないかと思っています。

シオカラトンボとムギワラトンボとでは圧倒的にシオカラが多いがどうしてだろうか?

シオカラに限らずトンボの場合、水辺で我々がよく見かけるのは成熟したオスの場合が多いのです。
シオカラトンボの成熟したオスの個体をシオカラ、メスや成熟していないオスをムギワラと呼んでいいます。
つまり、成熟したオスの方が目につきやすいので、シオカラが圧倒的に多いように感じる結果となるのだと思います。

田んぼの虫の調査方法に関して

虫見板調査は、チリトリを変形させたものを考案して稲の虫を受ける調査方法です。それに対して虫見枠は、地上にいる虫も水中にいる虫も調査できる方法だと思います。でも、捕まえた虫の名前を調べるのが難しいのです。子供達にも簡単に調査できる方法を見つけ出すことが今後の課題ではないでしょうか。

※詳しくは全国一斉アカトンボ調査報告書2004をご覧下さい。
報告書のご希望は当会へご連絡下さい。

NPO法人 むさしの里山研究会

事務所: 埼玉県大里郡寄居町末野 1233-2
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