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アキアカネの復活に向けた試み

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はじめに

アキアカネは日本各地に広く分布する赤トンボで、水田を主な繁殖場所とする里山を代表する生き物と言えます。平地で羽化した後に、ただちに高山へ移動して盛夏時を過ごすことから”避暑をするトンボ”として知られています。秋に集団で山から下りてくる光景や、オスとメスがつながって移動・産卵する光景は秋の風物詩ともなっています。しかし、最近急激にアキアカネが減ってきたようです。減少原因には様々な説があり、主因となる原因には地域差があると考えられます。大事なことは阻害要因を取り除き、アキアカネが生息できるような田んぼを呼び戻すことにあります。
当会ではそのための試みを長年続けて参りましたが、このたび武蔵野緑の基金の助成を頂き、他団体の協力も得てアキアカネ復活に向けての試みを行うことができました。その結果、復活に向けての水田耕作についての提案をまとめることができましたので、関係各位の参考に供する次第です。このささやかな冊子がアキアカネ復活のたたき台として、少しでもお役に立てばと願っていますし、各地で復活に向けた試みが行われることを期待しています。
報告に当たり、無農薬で栽培してくださった輪湖 昇さんと、岩殿満喫クラブの方々、水田の復元を許可くださった内笹井綾子さん、調査に同行して頂いた浦辺研一さん、仮屋浩二さん、原稿を読んで有益なアドバイスをしてくださった松木和雄さんをはじめ、ご協力くださった皆様に厚くお礼申し上げます。また本事業をご支援くださった「公益信託武蔵野銀行みどりの基金」にも心から感謝申し上げます。

特定非営利活動法人むさしの里山研究会
代表 新井 裕

試みの背景

当会が今から10年前の2005年から2007年の3年間実施した「全国一斉赤とんぼ調査」によって、地域によりアキアカネが減少している傾向が伺われました。これを受け、2009年に全国トンボ市民サミット実行委員会により「全国赤とんぼ調査」が実施され、さらに各地のトンボ研究者やトンボ愛好家によるアキアカネの動向調査が行われました。その結果、1990年代後半以降から、西日本をはじめ広範な地域で急激にアキアカネが減少していることが明らかになってきました。秋の風物詩として親しまれているアキアカネは、里山の象徴的な生き物です。また、本種は水田を主な生息場所として人と共存してきた生き物です。当会としては、何とかこれ以上の減少を食い止め、アキアカネが乱舞する日本の原風景を取り戻したいとの想いで、アキアカネの復活に向けた試みに着手しました。後述するようにアキアカネの減少要因には地域性があると考えられ、アキアカネを復活させるためには、地域ごとに復活に向けた試みが必要と考えます。その呼びかけのためにも、先ず地元のアキアカネの実態調査と復活への試みを行い、その結果を共有化するべきだと考えた次第です。

埼玉県でのアキアカネの生活史と生態

アキアカネは草があまり茂っておらず、泥がむき出しになった浅い水辺に生息します。現在のアキアカネの代表的な生息場所は水田ですが、我が国に水田稲作が伝来する以前は、増水後の河川敷にできる一時的な水溜まりや、植生が貧困な湿地に生息していたと考えられています。実際そのような場所で羽化する個体が見られますが、通常はそれらの場所からの羽化個体数は多くはありません。
アキアカネは1年に1世代を営む昆虫で、卵で越冬します。当会代表の新井が調べたところでは、埼玉県における生活史の概要は以下のとおりです。
秋に採卵したものをシャッターのない車庫の入口で管保管したところ、図1のように3月29日から孵化が始まり、4月20日までダラダラと続きました。このことから冬も水がある水たまりや水田では、4月頃に孵化すると思われます。孵化した幼虫(ヤゴ)は体長が1mmほどで、目の前に近づくミジンコなど微小な生物を捕食します。絶食には弱く、何も食べないと孵化後2日前後で死滅します。エサがない状態でも孵化直後の幼虫は共食いをすることはありません。幼虫の生育速度は早く、孵化後1ヶ月半から2ヶ月ほどで羽化して成虫になります。羽化した成虫は、羽化当日か翌日に羽化場所から垂直方向に急上昇し、高山地帯に移動して夏を過ごします。埼玉県での越夏場所は長野、山梨の県境にまたがる標高1000m以上の奥秩父の山岳地帯と思われます。しかし、丘陵地の渓流沿いなどで、少数ながら盛夏にアキアカネを見かけることがあることから、高山へ移動しない個体もあるかもしれません。高山で夏を過ごす間に成熟し、オスは腹部が赤くなり、メスは腹部に卵ができ、8月下旬から9月上旬になると、一斉に山から平地へと降りてきます。主にねぐらとなる樹林でオスは交尾相手のメスを探し、メスを発見すると連結し、2匹がつながった状態で産卵場所を求めて移動します。移動中に水辺を見つけると急降下し、メスが産卵場所の適否を判断します。不適と判断された場合には、水辺を飛び去って次の水辺を求めて移動します。適当と判断すると、空中で交尾態となって近くに静止して交尾を続けます。交尾時間は5分前後で、交尾を終えると連結態となって産卵を開始します。1回の産卵数は個体差が大きいのですが、1,000粒以上は産むようです。産卵を終えるとオスとメスは離れてしまいます。メスはその後日数を経過すると、新たに卵が作られ別のオスと交尾して再び産卵するようです。オスも別のメスと何度も交尾を行います。埼玉県の成虫の没姿時期は11月末から12月始めです。産み落とされた卵はすぐに発生をはじめ、産卵後1ヶ月ほどで孵化直前の状態になり、そのまま冬を越します。ある程度発生の進んだ卵は乾燥に耐えることが出来るため、冬のあいだ乾燥してしまう田んぼでも死滅することはありません。そして、春になり田んぼに水が張られると、卵から幼虫が孵化し世代を繰り返します。

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減少の原因

アキアカネ激減の原因については諸説がありますので、先ずそれらの説を簡単に紹介します。

1.農薬説

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図2.苗箱にモミをまいて育てから農薬を振りかける

現在最も支持されているのは、ネオニコチノイド系農薬主因説です。これは、複数の専門家によって提示されているもので、マスコミでもしばしば取り上げられています。その根拠として、アキアカネの激減傾向が過去10年くらい前から目立ってきたこと、その頃から農薬散布方法が育苗箱に撒く箱施薬が普及したこと。その農薬として用いられる浸透移行性の農薬、とくにネオニコチノイド系のものは、アキアカネに大きな影響を及ぼすことが実験で確認されたこと、ネオニコチノイド系殺虫剤を使ってない地域では、アキアカネが激減していないことを挙げています。このネオニコチノイド系農薬は、世界的に生じたミツバチの大量消滅の原因としても疑われています。
ネオニコチノイド系農薬とともに、フィブロニール系農薬もアキアカネへの影響が大きいことが指摘されています。いずれにしろ、これらの農薬はイネ苗の根から吸収されて植物体に長く留まるとともに、田植え後は根から農薬が水田面全体に移行し、ヤゴに大きなダメージを与えます。
箱施薬は手間がかからず長期間効果が期待できる画期的な施用法であるため、急速に普及していますが、埼玉県ではラジコンへりによる空中散布や動力噴霧器による地上散布も行われています。

2.温暖化説

近年の温暖化は、寄居町でも以前は見られなかった南方系の昆虫が、普通に見られるようになったことからも実感するところです。アキアカネは暑さに弱いため、夏の暑さを避けるため、羽化後高地へ移動するというのが定説になっています。高温に弱いアキアカネが、温暖化による何らかの高温障害を受け減少しているという説です。しかしこの説に対してのデータは提示されていません。そもそも、アキアカネが他のアカトンボ類に比べてとくに高温に弱いという検証もなされていません。可能性としては否定しませんが、裏付けるデータがないというのが現状です。

3.中干し説

中干しというのは、田植え後1ヶ月ほど経過した時に、亀裂が生じるほど水田土壌を乾かし、イネの分けつなどを促進するために行うものです。中干し説は乾燥によってヤゴが死滅することを原因とする考えです。寄居町の場合、中干しはアキアカネが羽化を終えた7月上旬頃ですので、中干しの影響はないようです。しかし、5月の連休に田植えが行われる地域では、羽化前後の6月中旬に中干しが行われるので、大きな影響があると思います。とはいえ、中干しの時期は梅雨期にあたりますので、降雨があればヤゴが死滅するほどカラカラに乾くことはないでしょう。また、中干しを行わない農家もあります。昔から中干しは行われてきましたので、10年ほど前からの急減の説明にはなりにくいようです。

4.乾田化説

作業効率を高めるため、湿田を乾田にする努力は昔から行われてきました。とりわけ、水稲以外の作物が栽培できる汎用化水田にするため、暗渠排水管の整備により水田の地表残留水が24時間以内で解消することが目標にされてからは、カラカラに乾く水田が増加しました。その結果、魚類を始めタニシ類やアカガエルなど多くの水生生物が生息できない水田が増加しました。トンボへの乾田化の影響は大きいことは確かですが、昭和40年代以降から大規模な乾田化が続いており、ここ10年来のアキアカネの急激な減少の主因とは考えにくいでしょう。

5.減反説

減反政策や高齢化のため耕作放棄され、水田面積が減少したことが原因であるという説です。率先して減反の対象とされるのは、生産性の低い排水不良な山あいの小さな田んぼであることが多いようです。しかし、このような水田こそアキアカネの発生に適しており、その減少はアキアカネに大きなダメージを与えたことは確かでしょう。
以上5つの減少要因を挙げましたが、これ以外にもあるかもしれません。アキアカネの減少は複合的な要因により、かつ地域差があると考えるのが妥当でしょう。では、埼玉県ではどのような要因の組み合わせにより減少し、今後どうしたらアキアカネの復活が可能なのでしょうか? 以下私たちが行った取り組みを紹介します。

寄居町の水田でのアキアカネの発生状況

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図3.奥の早植水田からのみアキアカネが羽化

先ず地元での現状把握が必要です。そこで、水田でのアキアカネの発生状況を知るため、町内各地の水田(いずれも乾田)を調べました。その結果、アキアカネが羽化する水田は非常に限られていることが分かりました。すなわち、アキアカネが羽化する水田に共通していることは、早期栽培または早植え栽培した水田に限られているということでした。また、冬季湛水した無農薬水田(冬水田んぼ)からもアキアカネの羽化が見られました。埼玉県では田植え時期が5月上旬の「早植え栽培」、5月中旬の「早期栽培」、6月上旬の「普通栽培」に分類され、寄居町をはじめ県内各地は6月上旬に田植えを行う普通栽培田が主流です。また、アキアカネが発生した農家に聞き取りをおこなったところ、いずれも無農薬栽培でした。このことから、①田植え時期が5月中旬までの早期栽培であること、②農薬を使用しないこと、の二つが発生の条件だと考えられます。前述のようにアキアカネは4月に孵化が始まりますが、普通栽培田では6月にならないと水が入りません。このため、孵化直前の卵が長期の乾燥に耐え切れず死滅してしまう結果、アキアカネが発生ないと考えられます。

埼玉県の早期栽培水田での発生状況

埼玉県の大部分の地域は普通栽培水田で、早期・早植え栽培地域は、さいたま市、幸手市、加須市など東部地域の一部に限られます。そこで、6月にこれらの地域を一回りして、アキアカネの幼虫の生息状況を調べました。その結果、アキアカネの幼虫が確認されたのは、さいたま市の1箇所の水田のみでした。少なくなったとはいえ、現在でも県内各地で普通にアキアカネは見られます。このことから、どこの水田からもアキアカネは発生すると思いがちです。しかし、本種は羽化場所からの分散性が高いため県内一帯に広く見られるのであって、早期・早植栽培地域でも、発生する水田はかなり限定されているのではないでしょうか?

アキアカネ復活に向けた試み

1.無農薬栽培水田での試み

当会では2001年から、農家の協力を得て寄居町内で田んぼ作りに取り組んできました。これまでに田んぼ作りを行った場所は、牟礼地区(2001年~2007年)、今市地区(2008年)、用土地区(2009年~2015年)の3地区の水田です。3地区いずれの水田も冬季間はカラカラに乾く乾田で、6月上旬に田植えを行う普通栽培です。牟礼地区の水田では除草剤を田植え後1回のみ散布、今市地区の田んぼは農薬を全く使わず、アイガモを放飼して除草しました。用土地区は2009年に耕作放棄水田(耕作放棄後40年ほど経過)を復田し、農薬を一切使用しない完全無農薬栽培を2015年まで続けました(図4、5)、
これら3地区の水田で合計14年間耕作したのですが、アキアカネの羽化は1頭も確認できませんでした。しかし、これらの水田では、稲刈り後に毎年多数のアキアカネのペアが産卵を行うのを確認していますので、卵を産み付けたのは確実です。牟礼地区の水田では、4月に降雨によって一時的に水がたまった場所を調べて、多数のアカトンボのヤゴが発生することを確認しています(その後の干上がりで死滅してしまいましたが)。これらのことから、当該水田でアキアカネが発生しないのは、農薬によるものではないことは確かで、田植え時期が遅いために孵化できないことが原因と推察できます。すなわち、前述した①無農薬栽培と②早期栽培という二つの条件のうち、後者がクリアできないためです。田植えを早くする早期・早植え栽培を行えば良い筈なのですが、勝手に早く水を引くことは叶いません。これらの水田はため池の水をかんがい用水として使用しているので、使用にあたっては、水利組合の同意が必要となり、私たちのような趣味で耕作している市民団体が、アカトンボのために特別に早く水を使わして欲しいとは言える状況にはないのです。

図4.40年以上耕作放棄されていた水田

図4.40年以上耕作放棄されていた水田

図5.水田に復元した状態(右側の水田)

図5.水田に復元した状態(右側の水田)

2.ミニ水田での試み

図6.井戸から給水中のミニ水田

図6.井戸から給水中のミニ水田

そこで、早く水を入れればアキアカネが発生することを証明するため、用土地区の復元水田のそばにミニ水田を作り、実証試験を行うことにしました。すなわち、底に防水シートを敷いた7㎡ほどのミニ水田(2.7m×2.6m)を作り、秋に水を撒いてアキアカネの産卵を誘致します。そして、翌年の4月にミニ水田のわきに掘った井戸から水を給水し、湛水状態を維持してヤゴの発生状況と羽化の有無を調べました。
その結果、4月26日に小さなヤゴが発生しているのが確認されました。5月30日に可能な限りのヤゴを採集し、体長を計測後元に戻しました。その結果、体長15~18mm(終齢)が6頭、13~11mm(亜終齢)が18頭、7~9mmが3頭の合計27頭のヤゴを確認できました。その後ヤゴは順調に生育し、6月13日に1頭が羽化したのを皮切りに、7月6日までに合計27頭のアキアカネが羽化しました。
このことから、アキアカネの孵化時期に合うよう早く田んぼに水を入れれば、アキアカネが羽化するとの確信を得ました。

3.早期栽培・無農薬栽培水田での調査

次に実際の田んぼで、無農薬栽培と早期栽培の組み合わせでアキアカネが発生することを実証する必要があります。この実証試験に協力してくれる耕作者を探したところ、幸い東松山市で田んぼ作り等の活動している岩殿満喫クラブと、小川町の有機栽培農家の輪湖 昇さんが全面的に協力して下さることになりました。両者にお願いしたのは、5月上旬までに田んぼに水を入れ、農薬を使用しない栽培です。これらの田んぼでは、昨年の秋(2014年)にアキアカネが産卵していることを前提にしています(、昨年の秋に多数のアキアカネが見られたことと、産卵に必要な水溜りができたこと、今年の秋には両方ともアキアカネが産卵していたことから、昨年も産卵されていたと見て良いでしょう)。両地区の水田は6月上旬田植えの普通栽培なのですが、小川町の場合は耕作者が無農薬栽培に取り組んでいる方ばかりなので、1枚だけ早く溜池から水を引くことを同意して下さったとのことです。東松山の方は沢の水を利用し、かつ周辺に耕作農家がないのでいつでも水を引けるとのことでした。

図7.東松山市の水田

図7.東松山市の水田

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図8.小川町の水田

調査の結果、残念ながら小川町の田んぼでは、アキアカネのヤゴの発生も羽化も全く認められませんでした。東松山市の水田では、対照区とした普通栽培田ではアキアカネの発生は皆無であったのに対し、早く水を入れた田では1頭のアキアカネのヤゴと1頭の羽化が確認されました。このことから、実際の水田でも早く水を入れることによってアキアカネが羽化する事は確認されたのですが、期待したほどの羽化数ではありませんでした。その原因を明らかにすることは今後の課題ですが、湛水後時々ヤゴをはじめ水中の生物を調べたところ、両地区とも生物相が極めて貧困でした。とくに孵化直後のエサとなる生物が極めてわずかでした。このことから、エサ不足が両地区でアキアカネが発生しなかったか、発生してもわずかだった原因ではないかと思われます。とくに、孵化したばかりのヤゴはエサの探索能力に欠け、目の前に接近したミジンコ類しか捕食できないようです。しかも、自分より小さな個体でないと捕食できません。水田に生息するミジンコには多くの種類があるのですが、孵化直後の時期にヤゴが捕食可能な大きさのミジンコが夥しく発生する必要があります。無農薬であっても、ヤゴの孵化とミジンコの発生のタイミングが合う水田は、意外と少ないのではないでしょうか?

4.卵の冷蔵保存実験

図9.冷蔵前のアキアカネの卵

図9.冷蔵前のアキアカネの卵

6月上旬に湛水、田植えを行う普通栽培田でアキアカネを発生させる方法として、卵を冷蔵保存して孵化時期を遅らせ、田植え後に保存した卵か孵化幼虫を放すということを考えました。そこで、卵の冷蔵保存の可能性を検討しました。前年の秋に採卵しておいた卵を暖房していない室内に置き、3月16日に家庭用冷蔵庫に入れました。冷蔵庫に入れる前の卵は図9のように、眼点(幼虫の目の部分)が出来ていて、孵化直前の状態でした。6月4日に冷蔵庫から出したところ、図6のようにその日から孵化が始まり、6月14日まで孵化が続きました。孵化率は調べませんでしたが、冷蔵しないものと遜色ない孵化率のようで、孵化幼虫も元気でした。このことから、卵の冷蔵保存が可能であることが明らかになりました。

しかし、孵化したヤゴを6月田植えの用土地区の復元水田に放したのですが、すぐに死滅してしまうのか、その後のヤゴの生育は確認できませんでした。孵化幼虫は抵抗力がないため生育できなかったのかもしれません。そこで、若齢~中齢のヤゴを田んぼ100頭ほどに放してみたのですが、それらのヤゴも成長することなく消滅してしまいました。しかし、広い水田の中では見逃した可能性があります。そこで、水田内に図11のような1.7m×0.7mの木枠を2箇所に置き、その中にそれぞれ若齢~終齢幼虫を各10頭放し、その後の生存状況を調べました。その結果、放飼したのは6月16日だったのですが、13日後の6月29日の生存虫は1頭で、7月10日には生存虫は0となってしまいました。このことから、無農薬栽培の水田であってもアキアカネの幼虫が生育できないことが確認できました。なお、この水田で確認された水生生物は、ホーネンエビ、ガムシ類、アマガエル、ヌマガエルなどで種類、個体数ともに貧困でした。

図10.冷蔵保存したアキアカネの卵の孵化消長

図10.冷蔵保存したアキアカネの卵の孵化消長

図11.幼虫をこの木枠内に放し生存状況を調査

図11.幼虫をこの木枠内に放し生存状況を調査

5.農薬の影響試験

table1水稲用の箱施薬剤の中でもアキアカネに影響の少ない薬剤がある可能性があるかどうか知るために、予備的な実験として3種類の薬剤を比較してみました。供試薬剤はオリゼメート粒剤(殺菌・殺虫剤)、フジワン粒剤(殺菌・植物成長調整剤)、オーベスト箱粒剤(殺菌・殺虫剤)の3種類で、いずれも所定量をモミ撒き後の育苗箱に振りかけました。

図12.ヤゴの飼育容器に稲を入れて影響を調査

図12.ヤゴの飼育容器に稲を入れて影響を調査

薬剤散布後3日経過してから、稲苗を数本引き抜き、5頭のヤゴを入れた飼育容器に入れ、その後のヤゴの生死状況を観察しました。その結果は、フジワン区の影響が少ないことが伺われましたが、フジワンは殺虫剤ではないので影響が少ないのは当然かもしれません。いずれにしろ、供試数が少なすぎますので(ヤゴを殺す実験には抵抗があったため)、しかるべき研究機関によって、アカトンボに影響の少ない薬剤を提示されることを期待します。

6.産卵場所選択と産卵誘致

図13.水をまいて水溜まりを作った水田

図13.水をまいて水溜まりを作った水田

アキアカネは稲刈り後の水田にできる浅い水たまりに好んで産卵します。ところが、稲刈り後に水溜りができにくい乾田が大部分を占める今日では、アキアカネの産卵場所が少なくなっています。どんなにアキアカネの生育に適した水田を用意しても、産卵しなければ話になりません。では、水田にできる水たまりなら何でも産卵するのでしょうか?そこで、用土地区の復元水田で、稲刈り後の田んぼの水たまりの大きさと、そこに産卵のために飛来したアキアカネの産卵率を比較してみました。すなわち、10月24日は降雨により田んぼ前面に水が溜まった状態でした。10月27日はだいぶ干上がりましたが、田んぼ全体に点々と水溜りが存在する状態でした。10月30日は水溜りが完全に消失しましたので、水をまいて0.8×3.7m、1.5×4.8m、3.4×4.8mの3つの水たまりを作りました。11月10日には1.9×4mの一つの水たまりを作りました。
各調査日とも毎回午前9時30分~10時50分の間に、一定位置で観察し、水溜りへの飛来カップル数と産卵ペア数をカウントしました。結果は表2のとおりで、飛来ペア数は調査日によって異なりましたが、いずれも飛来したペアの3~4割が産卵を行い、水溜まりの大きさによる率には大きな差はありませんでした。なお、周囲の田んぼに水溜りが全くない状態の実験では、バケツで数杯の水をまいた一抱えほどの小さな水溜りでも、3分以内にアキアカネのペアが飛来し、一時は10対もその水溜まりに産卵する光景が見られました。このように、アキアカネは小さな水溜まりでも目ざとく見つけ、様々な大きさの水溜りに分散して産卵する習性があると考えられます。

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埼玉県でのアキアカネの水田での減少要因の推察

何度も述べるように、埼玉県の水田は大半が普通栽培であるため、アキアカネの卵は乾燥に耐え切れず死滅してしまうと考えられます。しかし、昔から田植えは6月の梅雨期に行われていました。それなのに何故、昔はアキアカネがたくさん発生したのでしょうか。それは、昔の田んぼは水はけが悪いため卵が乾燥から守られ、水入れが6月以降の水田であっても孵化に支障がなかったのだと思います。5月中頃までに水が入る早期・早植え水田ではアキアカネは孵化します。ところが、孵化時にヤゴが捕食できるようなエサ(ミジンコ)が多数存在しないと、ヤゴは餓死してしまいますし、その後も継続的にエサが存在しないとヤゴは生育できません。ヤゴの放飼実験や小川町と東松山市での調査結果は、水田のエサ不足が原因でヤゴが生育できなかったものと思われます。このように、埼玉県ではカラカラに乾く水田の増加と孵化時を過ぎた田植え、アキアカネの発生源となっていた水はけの悪い谷津田の耕作放棄化、殺虫剤の使用による直接的影響、除草剤の連用による間接的影響(植物プランクトンの減少に伴うミジンコ等動物プランクトンの減少)などの組み合わせによって、アキアカネ発生源の減少を招いたと考えられます。一方、アキアカネは羽化した水田には戻らず、分散して移動先の水田に産卵します。移動先の産卵場所がアキアカネの生育できない水田ばかりであれば、卵は全て無駄になります。供給源の羽化可能な水田が多い時代は問題なかったのですが、供給源が減少し羽化個体数が減り続けている状態下で、無駄な産卵を繰り返した結果、ここ10年ほどに急減したと推察されます。

アキアカネと共存する水田耕作への提案

以上の結果から、埼玉県におけるアキアカネと共存する田んぼ作りとして、以下の提案をします。

・秋の耕耘はせず、水を引くか、バケツで水をまくなどして、水田に産卵場所となる水たまりを作る。
・水入れは5月上旬までに行う(卵が孵化する時期に合わせて水を入れる)
・殺虫剤は使わない(使う場合はアカトンボへの影響が少ないものを選ぶ)。
・中干しは7月中旬以降に行う(アカトンボの羽化を終えてから)。
・わらや牛ふんなどの有機質肥料を施し、ヤゴの餌となるミジンコを増やす。
・春に耕耘する(一時的な水溜りができて、水入れ前に卵が孵化しないようするため)。
・ブロックローテーションを行う場合には、稲作を2年続ける。

農家ではこのような提案を満たすのは、難しいと思いますので、NPO等市民団体が耕作している水田や、公園等公共機関が管理している水田で試していただきたいと願います。これまでアキアカネが発生しない田んぼでこの提案を試み、発生するようであればこの方法の有効性が実証されますし、発生しないようであれば、別の対策を考えなければなりません。いずれにしろ、様々な環境の水田で試みる価値はあると考えます。

水田とは異なるビオトープ池での発生状況

これまで述べてきたように、水田では6月以降に水を入れたのではアキアカネは孵化しないと考えられました。ところが、二つの人工池で調べたところ、田とは異なり6月以降に水が溜まっても孵化し、通常より遅い時期に羽化することがわかりました。この池は2ヶ所あり、1ヶ所は寄居町牟礼地区に当会が2000年に造成したビオトープ池、もう1ヶ所は同町鉢形地区の鉢形城址公園内に作られたものです。

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図14.ビオトープ池

前者は雨水のみによって貯水するため、冬季や夏季などに晴天が続くと干上がってしまいます。当初はアメリカザリガニが大量発生しましたが、干上がりを繰り返すためか、現在は少発生に留まり、大型の個体はごくわずかです。後者は景観形成用に作られた修景池のようで、当初はモツゴと思われる魚が放されていましたが、その後干上がってしまったために消滅してしまいました。この池にはアメリカザリガニは生息していません。

2015年の牟礼地区のビオトープ池での調査結果は表3のとおりです。表に見るとおり、この池は前年の夏以降から春にかけて水が溜まっていたにもかかわらず、アキアカネの孵化時期である4月~5月にかけては、ヤゴは全く見られませんでした(見逃した可能性もあるので、孵化しなかったと断定することはできませんが)。その後5月10日には完全に干上がってしまいました。干上がってから26日後の6月5日の夜から6日にかけてまとまった雨があり、6月6日には再び池に水が溜まりました。そこで、池を調査した結果、6月16日にアカネ属の微小なヤゴが発生しているのを確認しました。7月2日には終齢に達したものが多く見られ、形態からアキアカネであると判別できました。水が溜まってから46日後の7月21日には、羽化まもないアキアカネの成虫を26頭、マユタテアカネを2頭確認しました。いつ羽化が始まったのかは特定できませんでしたが、7月13日には全く羽化殻が見られなかったことから、7月14日~21日の間に羽化が始まったと考えられます。最も遅い羽化個体を確認したのは、8月4日でした。つまり、このビオトープ池でのアキアカネの羽化時期は、通常なら高山で過ごしている盛夏時でした。 

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図15.鉢形城址公園内の修景池

図15.鉢形城址公園内の修景池

一方、鉢形城址公園内の修景池の発生状況は次ページの表のとおりです。この修景池の場合にはビオトープ池とは異なり、5月に多数のヤゴが発生しました。しかし、5月末には池が干上がりそうになったため、ヤゴを救出しました。救出したアカネ属のヤゴを同定したところ、アキアカネを中心にノシメトンボ、マユタテアカネ、ヒメアカネ、ナツアカネが混在していることを確認しました。5月27日には完全に干上がってしまい、6月4日までの9日間干上がった状態が続きました。ビオトープ池と同様6月5日の雨で水が溜まり、37日後の7月12日には2頭のアキアカネの羽化殻を確認しました。翌7月13日に幼虫のサンプリング調査を行った結果、終齢から体長9mmまでの様々な大きさ のアカトンボのヤゴが多数見つかりました。ヤゴはアキアカネの他に少数のマユタテアカネと多数のナツアカネとが混在していました。アキアカネの羽化は7月下旬まででしたが、ナツアカネは8月に入ってからも羽化が続きました。

以上のように、この二つの池では水が溜まるのが6月以降であったにもかかわらず、アキアカネが孵化することが明らかになったのです。また、鉢形城跡の修景池での調査結果は、春に孵化しない長期の休眠卵が存在することを示唆しています。なぜ水田では6月以降の湛水では孵化しないのに、池では孵化するのか不可解です。水田と池では乾燥した時の土の湿潤度が異なり、池ではカラカラにならないために、卵が死滅しないのかもしれません。今後卵の乾燥耐性や休眠性について詳しく調べる必要があるでしょう。また、この結果は田植え時期が6月以降の普通栽培田でも、アキアカネが発生する可能性があることを示すものでもあります。

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まとめ

埼玉県でのアキアカネの減少要因と回復に向けた試案を述べました。埼玉県では乾田化の影響が大きいと思いますが、田植えが4~5月に行われる府県や、豪雪地域では乾田化の影響は少ないでしょう。ネオニコチノイド系の農薬が広域的に使用される地域では、減少の主因は農薬にあると考えるのが妥当でしょう。アキアカネの激減要因は多様で、その復活に向けては地域ごとに対策を講ずる必要があると考えます。しかし、アキアカネの減少要因としてネオニコチノイド系の農薬の可能性が大きいことがマスコミで大々的に報じられています。このため、農薬さえ使わなければアキアカネは復活すると思われがちです。しかし、これまで述べたように、それほど単純なことではないでしょう。また、最近は水田の生物保全機能が認識され、田んぼの生物図鑑も多数出版されています。このため、田んぼは生き物の宝庫のように思われがちです。確かに昔の田んぼは生き物が豊かだったようです。しかし現在の田んぼは、生物が極めて貧困です。今回指摘したように、ミジンコの低密度化がアキアカネの減少を招く一因となっている可能性があります。アキアカネの減少は、田んぼの生き物たちのSOSを代弁しているように思われます。今後アキアカネを含め、生き物と共存する水田耕作技術を明らかにしたいものです。しかし、たとえ技術が開発されたとしても、現状では農家がそれを取り入れることは困難でしょう。生産性や効率性を犠牲にしても、生き物と共存する水田耕作を取り入れる農家に対し、公的な支援策も築ずる必要があると考えます。(以上文責 新井 裕)

全国一斉アカトンボ調査報告会要旨

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全体風景

ヒト・ムシ・田んぼの会


1. 15年度調査の概要

新井 裕

今年度は赤トンボ調査の2年目になります。赤トンボ(ウスバキトンボ)はなぞの多いトンボで、日本中どこにもいるが寒さに弱く、日本では冬を越せないといわれています。赤トンボが夏来るのはどこから来るのか、どこで冬を越しているのか、そのルーツを突き止めたい、DNAの鑑定によりどこから飛んできたか突き止めたいというのが目的の一つです。アキアカネは夏には山に移動するが、どう移動しているのだろうか。
例えば、東京で羽化したトンボは山の方向がどうして分かるのだろうか?など、いまだに謎がいっぱいです。

アキアカネが少なくなってきている、特に新潟や関西が減ってきているという話があります。それは、赤トンボの発生場所である田んぼや身近な水辺だから田んぼに何か起こっているのだろうか。赤トンボを通して環境問題に関心を持ってもらいたいと考えています。

アンケートは昨年も今年度も各千通配布し、ホームページからもアクセスできるようにしました。しかし、感心は低かったです。理由は、トンボの見分け方が難しいことがあります。今年は、アンケート内容を簡単にしたり、赤トンボの見分けるための下敷きを作ったりと分かりやすく工夫しましたが、期待したほど効果はありませんでした。来年は学校の協力を得ようかと思っています。6月のプール掃除のとき、羽化前のヤゴが流されてしまうので、掃除のとき赤トンボのヤゴがいるかどうか調べてもらう。次代を担う子ども達を巻き込むことは良いことだと思います。また、今夏川の博物館でトンボ展を開催しますが来館者にアンケートに協力してもらうことも考えています。

今年度のアンケ-トの結果から見ると10代、20代の関心が低かったです。これは母親の関心が低いからと思われます。50代、60代の感心が高いのは原体験があるからかと思われます。今の子ども達にも原体験が必要だと強く感じます。

DNA分析では、差があまりにもありすぎました。28種類系統の違いがありました。これはウスバキトンボが越冬している場所で既に混ざりあっていて、混ざり合ったまま越冬後日本に渡ってきていると考えられます。このことから15年度は、定点調査を実施し、目下その結果を分析中です。いずれにしろウスバキトンボのDNA解析は世界で初めてのことで、大きな成果と言えましょう。

2. 奥武蔵のアキアカネの推移

石澤 直也

昨年(2002年)の調査で埼玉県西部の奥武蔵丘陵では夏を通してアキアカネが滞留することが分かりました。そこで、そのような場所で過ごしているアキカネの成熟課程を調査した結果、次のようなことが分かりました。

  1. 体重を後翅長の3乗で除し、千倍した値(MD)が、成熟度を表す指標として適していると考えられた。
    ただしこの場合の成熟度は、必ずしも性的な成熟を意味するものではなく、からだの完成の度合いを数値で表したものである。
  2. アキカネは羽化後2週間もすれば、からだは概ね成熟すると考えられる。
  3. 9月中旬から急速に卵巣が成熟すると考えられるが、卵巣の成熟度と雌腹部の白化程度や羽の曇り具合とは必ずしも一致するものではない。

3. 寄居町周辺の水田におけるアキアカネの発生消長

新井 裕

  1. アキアカネは初夏に里の水田などで羽化し、真夏は高い山で過ごして秋になると里に下りてくると言われています。確かに 秋になると、町内のいたるところでアキアカネの姿を目にすることが出来ました。しかしその反面、寄居町やその周辺で調べたところ、アキカネが羽化する水田はごくわずかで、羽化間もない個体も羽化場所以外では全く見られませんでした。
    このことから、私は「羽化した個体は寄り道をせず一気に山に向かうのに対し、山から下りてくる個体はあ ちこち分散する」と言う仮説をたてました。このことは、田んぼから羽化した個体は上空へ上り、トンビのように輪を描いて一気に山のほうへ向かうことから裏付けられるでしょう。
  2. アキアカネが羽化した水田は早期栽培田か湿田でした。しかし、早期栽培田だからといってアキアカネが羽化するとは限りませんでした。隣接している田んぼでも発生状況は違っていました。田んぼといってもトンボにとっては住みやすさが違うのでしょう。ここから考えられる仮設は、アキアカネの発生する田んぼは多くない。限られているのではないか。ということです。
  3. アキアカネは田んぼには産卵したが、ビオトープには産卵しなかった。つまり、アキアカネは田んぼがなくなると、いなくなってしまうと考えられます。メスが、産卵場所を判断しているのですが、稲刈りの後の薄く水のある田んぼを好んでいると思われます。産卵した田んぼを調べたところ、4月に同じ場所に雨で水がたまると、たくさんふ化することが分かりました。しかし、それらは水が干上がると死滅してしまい、6月に田植えしてからはふ化しませんでした。つまり、産卵してふ化しても田植えが遅い乾田では死滅してしまうのです。無駄な産卵をしていることになります。4月に田んぼに水を入れれば赤トンボは死なないと思います。
    しかし、今の田んぼでは水利権の問題等があり、田植え前に水を入れることはできません。

≪まとめ≫ アキアカネが羽化するための水田の条件

  1. 収穫後アキアカネの産卵時期に浅い水溜りができ、アキアカネが産卵すること。
  2. 春にすぐに干上がる一時的な水溜りができないこと
  3. 田植えが4月末から5月中旬頃までに行われること
  4. ふ化時期から羽化時期(6月下旬~7月上旬)まで水位が保たれていること
  5. 幼虫時期に殺虫剤の散布が行われないこと

アキカネが減っている地域は、この条件に合わない田んぼが主体になっているのではないでしょうか。

4. 大東島と徳之島のウスバキトンボの発生消長

岡崎 幹人

大東島では、僅かながら真冬に幼虫が見られ、越冬が可能なようでした。成虫は真冬には見られなくなる年と、僅かに見られる年とがあり年格差が大きいようでした。しかし、いずれにしろ、春まではウスバキトンボの密度は低く、個体数がが多くなるのは梅雨以降でした。そして、夏の終わるあたりから激増するのですが、それは台風の影響が大きいように思われました。個体数が多い状態は10月中旬あたりまで続きますが、やがて北風が吹くようになると減ります。この北風に乗ってどこかへいってしまうのではないでしょうか? この時期本土から供給されている可能性もあります。

徳之島の場合、成虫が見られるようになるのは4月~5月中旬ですが、この時期の個体数は非常に少ないです。梅雨に入っても個体数が少ない状態が続き、梅雨明けの7月以降に急増しました。この増加には台風の影響が大きいように思われました。個体数が多い状態は10月中旬頃まで続きますが、その後激減しました。しかし11月から12月上旬までは少ないものの、毎日見ることができ、12月16日を最後に見かけなくなりました。

5. 百姓仕事とトンボⅠ

小川 文昭(人・虫・田んぼの会)

人・虫・たんぼの会は、田んぼというフィールドを通して 虫や植物や人などそれぞれが関わりあえる活動をしている会です。
農家が取り組みやすい生物調査の指標を作り、子ども達や地域の人に田んぼの生き物調査の方法を提供したいと考え、そのために現在勉強会を実施しています。さらに、地元の博物館で『田んぼの生き物展』を開催したり、『伊那谷の田んぼの虫図鑑』を作成する予定です。

私は15年前に新規就農者として農業を始めたのですが、2~3年前までは田んぼで作業をしていても生き物には目がいっていませんでした。毎日田んぼを歩いていても、目には映っていても、頭では認識していなくて、なんとなく虫がいるなーという感じでした。
村の農家の人に虫の話をしても、『小川さんは無農薬の米が高く売れて余裕が出てきたからそんなことができるんだ』と言われてしまうんです。
今では『心に余裕があれば見ることができるんだ』と言えるようになりました。

昨年、むさしの里山研究会の依頼を受けて、ウスバキトンボを初めて採集しました。トンボを手に採って観察して、初めて愛着が沸いてきたんです。そして守らなければならないと!思いました。捕まえてみないと何も分からず、愛着も沸かない。そこで、いくつかの新兵器を作ったんです。まずこれ(長い釣竿の先にタモ網をつけたものを会場に伸ばし、みんなの頭の上で振って見せてくれる。)それにカメラ、田んぼに行く時はいつでもカメラをぶら下げています。トラクターから撮った虫の写真は生き生きしていると評価されています。
それからこの『虫見枠』(50センチ四方の手作りの木製枠で、枠を田んぼに入れ、その中の生き物を全て網ですくって調べるという)。虫見枠で田んぼの生き物を見つめるようになって、田んぼへの関わり方も変わってきています。長野県から生き物調査の指標作りの話がきて、枠を作るための予算が付きそうです。
会の仲間で、『田んぼの日記』と題してメール交換をしていて、朝晩みんなで虫の話をしています。それを基に地域の生き物出現カレンダーが作れるかもしれません。

新規就農者と言う立場では、周りの農家へ伝えにくいし、伝わらないかも知れません。でも、田んぼの生き物を観察し、自分達の生き方を深めていくことで、伝える手段が増えていくと思っています。大切なのはライフスタイルの提案だと思うのです。

6. 百姓仕事とトンボⅡ

宇根 豊

全国にひと・むし・たんぼの会のような会が現れてきています。昨年12月には農林水産省大臣が政策転換を発表しました。『環境政策の基本方針』というもので『豊かな自然環境の保全・形成のための政策転換』のための基本方針です。これを実現するためには、ライフスタイルの転換が必要です。自然と共生した農的な生活スタイルであり、これからは地域で百姓が主導権を持てる、つまり百姓が主人公になるでしょう。しかし、百姓は虫の違いなど分かっているのだろうか。これから勉強していく必要があるでしょう。
そのためには、そんな百姓を手助けしていく組織として農協や役所が必要になります。農協や役所は、今までは百姓に指示ばかりしてきました。

有機農業は安全性を先行させていて、環境保全までは視野に入れていないのが現状です。そこに『赤トンボ調査』の意義があります。赤トンボと水田の関係を知らない農家が多いのが現状です。農業は、生産性の向上と環境保全を関連させていく必要があります。役に立たない生き物をどう守るかという原初的な感覚が大切になってきます。例えば、地域によっては赤トンボは祖先の霊を乗せてやってきてまた山に帰るという言い伝えがあり『盆トンボ』『精霊トンボ』と呼ばれてきました。現在の見方で新しい物語を作っていく運動が『赤トンボ調査』だと思っています。

農業政策の概念の転換が必要です。オーガニックも今や輸入がほとんどです。これで良い訳がありません。
安全な米は輸入できても『赤とんぼや田んぼの涼しい風』は輸入できないのです。ドイツでは大規模農家の年間所得は400万円位です。その内自分で稼いでいるのは190万円くらい、所得の3分の1くらいは環境支払いとして税金で賄われています。

日本は百姓が生き物(自然)を支えているという意識や自信が希薄です。今までお金になる価値でしか農を見てこなかったということです。

今後の課題として、赤トンボ調査はほんの入り口でしかありません。『生物指標』の作成を提案しています。減農薬をすれば赤トンボはすぐに増えます。しかし、赤トンボは田んぼから生まれることを認識する必要があります。農薬の指標だけでなく、田んぼの生き物の指標が必要なのです。若い人は、赤トンボを好きでないという話もあります。赤トンボの文化が変わってきています。赤トンボの文化の指標も考えていくべきでしょう。赤トンボで切り開いた感覚を他の生き物にも使っていけます。

いろいろな環境指標が必要でしょう。例えば、田んぼの畦草刈りをきちんとしていく指標(草と虫を関連させた指標)、田んぼごとに違う生き物の指標(画一的な昔からの指標からの回避のため)、全国各地の村々で作る指標など考えられます。そのためには、調査方法を提案していくことが必要です。やっと入り口が開いたところです。

7. 質疑応答

※質問をクリックすると、回答を見ることができます。

トンボの世界で地球の温暖化の影響がはっきり見られるのでしょうか?

温暖化の影響は見事に出ている。例えば、タイワンウチワヤンマは南方にしかいなかったトンボだったのですが、年々北上していて現在では神奈川県まで来ています。

トンボの産卵場所と植生の関係は?

例えば、アキアカネは草が生えているとダメ、ナツアカネは草がないとダメ等産卵場所と植生の関係はかなり緊密な関係にあります。

食の安全のためにICチップを利用し栽培暦等を管理しているが、食の画一化の農業政策ではないだろうか?

トレイスアビリティーの関係。いつの間にか野菜でなく紙を食うようになってしまったといえましょう。安全性を証明するために莫大なエネルギーを注いでいるわけです。ご飯を食べることは、自然を保護していること。そこで採れた食べ物を食べることがそこの自然を大切にすることではないでしょうか。食にはもっと豊かな価値がある。安全だけでなく、自然に配慮した農業の見直し、例えば田んぼは1枚ずつ個性が違う事実がある。自然に配慮した農業を打ち出していくのは今がチャンスだと思います。

寄居の田んぼでの調査はどのように行ったのでしょうか?

任意に田んぼを選び、歩きながら目で見て虫の有無を確認しました調査をした。

50年前の川・田んぼの状態と現在とあまりにも違っている。それを取り返すために、本庄の会では、川と田んぼと農家とタイアップして進めています。今後一緒に連携していくことをお願いしたいと思います。

承知しました。何かお役に立てることがありましたらご連絡下さい。

トンボが真上に飛び上がりトンビのように円を描いて一定方向に飛んでいくとの事だが、その方向はどちらでしょうか?

寄居町で言うとそれは秩父方面で、どの個体も同じ方向を目指しました。
三重県ではトンボにマークをつけて研究している団体があります。しかし、マ-ク個体の再発見率が少なく、あまり成果があがっていないようです。この場合、羽化場所でマークをつけていないために、せっかく再発見しても移動についての情報があまり得られないようのではないでしょうか。マ-キング場所の選定も重要だと思います。

小川さんの話では、米ぬかを撒くとオタマが死ぬということですが、オタマは米ぬかを逆さになって食べるために死んだように見えるだけでないでしょうか?

完全に死んでしまいます。米ぬかの油分が水面に浮かんで酸欠状態になるのではないかと思っています。

シオカラトンボとムギワラトンボとでは圧倒的にシオカラが多いがどうしてだろうか?

シオカラに限らずトンボの場合、水辺で我々がよく見かけるのは成熟したオスの場合が多いのです。
シオカラトンボの成熟したオスの個体をシオカラ、メスや成熟していないオスをムギワラと呼んでいいます。
つまり、成熟したオスの方が目につきやすいので、シオカラが圧倒的に多いように感じる結果となるのだと思います。

田んぼの虫の調査方法に関して

虫見板調査は、チリトリを変形させたものを考案して稲の虫を受ける調査方法です。それに対して虫見枠は、地上にいる虫も水中にいる虫も調査できる方法だと思います。でも、捕まえた虫の名前を調べるのが難しいのです。子供達にも簡単に調査できる方法を見つけ出すことが今後の課題ではないでしょうか。

※詳しくは全国一斉アカトンボ調査報告書2004をご覧下さい。
報告書のご希望は当会へご連絡下さい。

NPO法人 むさしの里山研究会

事務所: 埼玉県大里郡寄居町末野 1233-2
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E-Mail: tombo2@d1.dion.ne.jp
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